Narrative

わが内に獣の眠り落ちしあとも 太陽はあり頭蓋を抜けて

地獄変

傷一つないきれいな文学だと思った。話の展開のいっさいに無駄がなく、しなやかなアスリートの身体を見ているような気がした。これは緻密に練られているのか、芥川の才能なのか、はたまた両方か。

一昨日観たローマの休日も瑕瑾のない作品だったけれど、地獄変はもっと胸に切実に迫ってくるものがある。不躾だけどいつか同じ土俵に立ってみたい。なんなら今すぐにでも立ってやりたい。

高1のとき、古典の授業で絵仏師良秀を読んだ。よくわからない、正直つまらない作品だと思った。それなのに、同じ作品から想像を膨らませてこんな傑作を書けることに圧倒されてしまった。うんうん唸ることしかできない。芥川が友達じゃなくてよかった。もし友達だったら、私は文学の道に進むことをとっくに諦めていたと思う。